強引な「2025年開業宣言」
リニア中央新幹線は、本来、東京―大阪間を約1時間で結ぶ構想ですが、その一環として、まず東京―名古屋間を直通約40分で結ぶという計画が進められています。
JR東海はこの計画を2007年4月に正式に発表しました。
新幹線の建設には法律による手続きが必要です。リニア中央新幹線は、国の全国新幹線鉄道整備法の基本計画路線に位置付けられているものの、次の段階である整備計画には格上げされず、いまだに中途半端な段階です。
そのためJR東海は、総事業費を全額自己負担とし、強引に「2025年までに開業する」と宣言しました。
このような強引な手法に対し、JR東海の労働組合であるJR東海労組は「一方的かつ独善的」と批判する声明を出しています。
人間モルモット鉄道
リニア中央新幹線の問題点の第1は、電磁波公害です。強力な磁気で車体を浮かして高速で走らせようとするリニア鉄道のいわば宿命ともいえる問題です。床面で20万ミリガウス、座席位置で2〜5万ミリガウスの電磁波を走行中浴びるという「人間モルモット実験鉄道」です。
第2の問題点は、経済効果です。
地下40m以下の大深度地下を貫くため建設費は膨大です。「東京―名古屋間で建設費5兆円を超える」とJR東海は試算したことがありますが、実際はこの2倍から3倍以上かかるのではないでしょうか。これを全額JR東海が自己負担しようというのです。
リニア中央新幹線は「東海道新幹線のバイパス」として必要だとJR東海は言いますが、少子化と将来的人口減少により、鉄道を最も多く利用する15〜64歳の年代層はリニア開業年の2025年で、現在より1千万人、13%も減少すると統計は示しています。
リーマンショックで世界的に経済は沈滞化しており、もはや高度経済成長や"土建国家経済"を夢見ている時代ではありません。
第3の問題点として、環境破壊の問題があります。リニア中央新幹線は南アルプスの地下を通ります。そこにある中央構造線や伊那谷等々、いくつもの活断層をリニアは貫きます。地層を流れる地下水脈も分断します。膨大な残土廃棄の問題もあります。大深度地下を通るため、電力維持費も通常鉄道の3〜5倍かかると言われています。
大深度内で事故が起こった際の救出作業も簡単ではないでしょう。
そして第4の問題点として、「そもそも本当にリニアでなければならないのか」という問題があります。
「新幹線、そんなに急いでどこへ行く」ではないですが、なんでも速ければいい、という感覚こそ問われるべきではないでしょうか。
既存の新幹線も老朽化が進んでいます。既存新幹線の線路、道床、橋梁、トンネル等の安全性確保ならまだしも、安全が保障されないリニアなどまっぴらごめん、と私は主張します。
大久保貞利(電磁波問題市民研究会事務局長)
(『食品と暮らしの安全No.250』 2010.2.1発行)