第26回 イップス(局所性ジストニア)〜テニスのボール出しが戻った〜
プロゴルファーが意に反したパットしかできなくなる障害「イップス」。多くのプロがイップスでトーナメントから消えていったとされる。もともとゴルフ用語だったイップスはいま、ゴルフ以外でも、スポーツの動作に支障をきたし、思い通りのプレーができなくなる運動障害をあらわす用語として使われている。ボールを打とうとすると手が震え、とんでもない方向にボールが飛んでいくため、ボール出しができなくなったテニスインストラクターは、ごしんじょう療法で劇的に回復したという。珍しいイップスの症例を紹介する。
どうしても遅いサーブが打てない
東京都のテニスインストラクター、中島充さん(仮名、45歳)が最初にイップスになったのは、約7年前だった。
ある日突然、所属していた有名スクールでレッスン中、高齢女性の生徒を相手にゆっくりとしたサーブをライン上に打とうと思った時、利き腕の左手が硬直し、サーブが打てなくなった。いつも通りに打とうと思うのに、どうしても打てない。高齢女性に気を使い過ぎているのかもしれない、と思った。だがそれをきっかけに、どの生徒を相手にしても、「ゆっくりとしたサーブが打てない」という状況に陥ってしまったという。
「当時はテニスにイップスというものがあるのを知らなかったので、自分の症状をイップスとは思いませんでした。それまでは、コーチですから、早い球、遅い球、変化のある球も、相手に合わせてどんなボールも打てました。遅いサーブが打てなくなった時も、早いサーブは打てていましたし、試合をすればこれまで通りにプレーができました。それなのに、どうしてもゆっくりしたサーブだけが打てないんです」
サービスができないという状態がしばらく続いた当時、中島さんは諸事情から所属スクールを辞め、個人のレッスンプロになった。個人でやれば必ずしもサービスをやらなくても済むため、何となくごまかしながら、テニスインストラクターを続けた。自分でも遅いサーブの練習を続け、約3年かけてなんとか元に戻したという。
ラケットを握る手が震え…
実は中島さんには当時、「転職したい」という気持ちが生じていたという。そのこともイップス発症と関係しているかもしれないというが、転職の願望は、母親をがんで亡くした平成22年10月からさらに強くなった。闘病する母のマッサージをよくしていた経験から、「人を助ける仕事で生きていきたい」という願望が強くなり、鍼灸師を目指すようになったという。
「調べると、鍼灸学校を卒業するまで、500万円もの学費がかかるんですね。僕はその2年前にマンションを買ったばかりで貯金がほとんどなかったので、1年かけて500万円を貯めようと決意しました。サービスの問題も克服したし、本気になれば絶対に貯められると気合を入れて仕事に打ち込みました」
中島さんは個人のレッスンのほか、計3か所のテニススクールと契約し、毎日朝8時から午後11時まで、スクールを掛け持ちしてレッスンを入れたという。
そんな時だった。再びイップスが中島さんを襲った。
きっかけは平成23年6月下旬、仕事に厳しい同僚のインストラクターが「ここにボールを出して」と指示した時、どうしてもその場所にボールを出せなくなったことだった。それを機に、どんな時もボール出しが全くできなくなった。
ボールを打とうとすると、ラケットを握る左手が震える。無理に打つと、ボールがとんでもない方向に飛んでしまう。見ている生徒たちの「え?」と仰天する声が恐怖だった。次第に身体じゅうが震えて、ラケットを握ると怯える状態になってしまった。
「人はこうやって自殺するんだ…」
中島さんはこの時、すでにテニスにもイップスが存在することを知っていた。自分の症状がイップスだと確信し、すぐにインターネットで調べ、精神的な面が大きく影響するという説明に大いに納得した。「鍼灸学校の500万円を貯めるために仕事を入れ過ぎ、心身が疲弊していたことに加え、かつて名門スクールでコーチをしていた経歴が新しく契約したスクールでも話題になっていて、プレッシャーになっていたと思います。仕事に厳しいインストラクターの存在にもストレスを感じていました」と振り返る。
中島さんはひとつのスクールを辞め、イップスを克服するためにひたすらボール出しの練習をし、インターネットで「ワンバウンドで打つとイップスは治る」という書き込みを見ると、その通りやってみた。だが、サービスだけの障害だった最初のイップスとは違い、今度はテニスコーチの基本であるボール出しができない。ネットの向こうに誰もいないと楽々ボール出しができるのに、生徒が立つとボールが出せない。これではレッスンにならず、レッスン自体が恐怖になった。しかし仕事であるレッスンを休むと収入がなくなり、鍼灸師になるという夢も断たれる。だからレッスンを休むわけにいかない。辛い苦しい日々だったという。
同年9月に心療内科を受診すると「社会不安症候群」と診断され、「ストレスと過労によるスポーツ障害」を改善するために精神安定剤「ソラナックス」を処方された。服用を続けてみたが、イップスの症状は多少改善されるものの、「薬で感覚を麻痺させて、自分をだましている感じだった」という。体調自体は悪化するばかりで、体のだるさ、倦怠感という薬の副作用にも悩まされた。
職業であるテニスが思うようにできない苦しみ、絶望。
「人はこうやって自殺するんだ…」
夜眠れず、考えていると、悪しきことが頭に浮かんでしまう日々が続いた。
鍼灸整骨院でごしんじょう体験
心療内科への通院中、中島さんは整体師をしているスクールの生徒から、ごしんじょう療法を施術している鍼灸整骨院で治療を受けることを勧められた。施術する鍼灸師は、貴峰道本部からごしんじょうを譲り受け、ごしんじょう療法を実践している。
「金の棒で?」と最初は疑ったが、とりあえず一度治療へ。すると、治療後、これまで味わったことがない爽快感を得られ、脳が活性化する感覚があった。と同時に、薬でボーっとするのとは全く違って、心身が空っぽになって放心するほどリラックスし、「これはすごい」と感動したという。
帰宅し、何となくラケットを握ると、肩が信じられないほど軽く、ラケットを持つ左腕が予想外のところまで高く上がり、「ラケットが飛んでいっちゃうんじゃないかと焦りました」というほど体が機敏に動いたという。
「当時は、まだ貴田先生の治療を受けておらず、鍼灸整骨院では邪気という説明もなかったのですが、ごしんじょう療法で脳がどういうわけかものすごく活性化して、運動神経への伝達が速やかに行われているという感覚がありました。イップスにかかっていた自分は、ストレスで脳がやられていたんだと確信に近い実感がありましたね」
昔の自分に戻れる自信と将来への展望
ごしんじょう療法を施療する鍼灸整骨院に計4回通った中島さんは、どうしてもごしんじょうが欲しくなり、貴峰道本部への予約を入れると同時にごしんじょうを申し込んだ。初診日の平成24年5月18日にはごしんじょうを譲り受けたという。
「貴峰道での治療は、それまでの整骨院のごしんじょう療法と全く違っていました。貴田先生の邪気の説明も非常に納得のいくものでしたが、貴峰道でのごしんじょう療法は邪気の抜ける量が全然違います。治療後の爽快感はものすごいもので、意外なことに、自分の声が大きく出るので驚いたんです。
整骨院でのごしんじょう療法でもそれなりの効果を実感し、イップスは改善していたのですが、時々不安に陥ることや夜眠れないこと、また朝は落ち着かない感覚が続いていました。ところが、貴峰道本部でごしんじょう療法を受けた時から、イップスの症状はなくなり、ボール出しに自信が持てるほどになったんです。1回の治療で昔の自分に戻れるという自信がつきましたが、2回目の治療後にはラケットを握る感覚が完全に元に戻りました。絶望していたことが今では嘘のようです。以前よりも体の動きがいいくらいですから、本当にごしんじょう療法で救われました」
現在はレッスン中の視野が広がり、自分のやっていることが分かる。ごしんじょう療法によって、運動機能だけでなく、脳の働きが格段に良くなったという。こうした自らの体験から、中島さんは電磁波の影響にも言及。「私は携帯電話をよく使います。たいてい右耳で携帯を使いますが、『特に右側の頭の邪気がすごい。それも大きな原因』と貴田先生に言われました。イップスはストレスやプレッシャーが主な原因だと思っていましたが、治療を受けると手から抜けていくビリビリした電気的な感覚がありますので、電磁波も大きな原因だということが実感としてよく分かりました」と話す。
「先のことはもっとごしんじょう療法の勉強をしてから考えますが、自分の経験から、スポーツ選手にこそごしんじょう療法だと思っているんです。イップスだけでなく、ごしんじょう療法は劇的に痛みを取り、炎症を鎮め、肉体の運動機能を高めてくれますから。そのことを伝え、実践する人になりたいと考えています」
イップスを克服し、明るい表情で話す中島さんには、ごしんじょう療法への感謝を根底に、この療法で人を救いたいという将来の展望も膨らんでいるようだ。
邪気を抜いて「脳の電位」下げる
イップスの原因は明らかにされていない。だが、現代医学でイップスは「局所性ジストニア」に分類され、意に反して持続的な筋肉収縮を引き起こす神経疾患の一種とされている。
貴田晞照氏は中島氏のイップスについて、「ストレスや過労、頻繁に使用していた携帯電話などの電磁波などによって脳や症状の出るところに溜まった過剰な邪気が本質」と説明する。ごしんじょう療法ではあらゆる疾患を「邪気を取り除く」ことのみで改善させているが、イップスにおいてもしかりという。
中島さんは「ごしんじょう療法の治療後は脳が活性化して軽くなり、神経伝達がスムーズになる」と語った。これについて、貴田氏は「中島さんの脳や体には大量の邪気が溜まっていました。脳の邪気を抜いて、脳の電位を下げ、左腕の邪気も抜いたことで、生命エネルギーの場が正しくなり、正しく運動神経の伝達が行われるようになったのです。邪気の原因はさまざまあり、ストレスや過労も一因ですが、電磁波は大量の邪気を生み出します。大量の電磁波を浴びている現代人は総じて脳の電位が高まっているため、てんかんやうつ、不眠、頭痛、イライラ、キレるなどの症状、神経伝達障害などの脳障害が増えているのです」と話す。
脳の電位を下げる――。
平成13年3月、ごしんじょう療法を取材し、貴田氏の理論を初めて聞いた私は、その斬新で革新的な表現を耳にし、全身に電気が走るような感覚を覚えたものだ。そして驚くべきことに、ごしんじょう療法では実際に、多くの人が邪気(過剰な電磁気エネルギー)が排出される感覚を実感できる。この革新的理論は実感が伴うのである。
現代人は脳の電位が高まっているという。とくに脳障害を抱える場合、ごしんじょう療法を体験することで、多くの人が「脳の電位を下げる」ことの重要性に気づくにちがいない。
平成24年8月1日
久保田正子