ある日、突然、自分の家のそばに携帯電話基地局が建ってしまったら――そんな不安を抱えている人は少なくありません。福岡県篠栗町や神奈川県鎌倉市など、各地で携帯電話の設置に際して、事業者に事前説明を求める動きが広がっています。
北海道旭川市でも、高さ10m以上の基地局を設置する場合、高さ×2倍の範囲に住民に事前説明するよう、2009年9月に事業者へ要請をしています。しかし実際には、10m未満の基地局であることを理由に、周辺住民への説明がないまま、建てられるケースもあります。
旭川市議会議員の山城えり子さんは、このように基地局が家の近くの道路敷地に設置された住民から相談を受けていることを6月25日の市議会で伝え、撤去を望む住民の声に市としてどのように対応するのかを質問しました。この基地局が建つ道路敷地は樹木が茂る緑地帯で、道路沿いには住宅が立ち並んでいます。
旭川市都市建築部は、撤去を望む住民がいる場合は「話を聞いて十分に状況を把握した上で設置者と協議する」と回答しました。また、山城さんの質問によって、市有地や市が管理する施設など18ヵ所に34基の基地局が設置され、借地料は合計で6万3420円、契約期間は1〜5年であることが明らかになりました。設置場所によって料金は異なりますが、最低で年間1,200円、最高でも6,000円でした。ちなみに問題の基地局の借地料は年間4,080円で、契約期間は5年でした。
基地局の契約期間は、民有地やマンションに設置される場合は通常10年間と長く、年間借地料も80〜100万円なので、市有地の料金は格安です。
なぜ、こんなに安く、しかも短い期間で契約しているのでしょう?旭川市総務課に尋ねたところ、地方自治法では、行政財産の用途や目的を妨げない範囲内で使用許可が認められ、基地局は「電気通信法に基づく公益事業」という理由で、設置が許可されてきたそうです。旭川市公有財産規則では、行政財産の使用許可の期間は通常1年以内で、最長で5年まで認められています。「借地料は使用料徴収条例に基づいて算定されている」ということでした。
国際がん研究機関(IARC)が、無線周波数電磁波を「発がん性の可能性がある」と認めてから一年が経ちましたが、旭川市は「電磁波と健康被害との因果関係について明確になっていないと承知している」という立場です。発がん性の可能性がある電磁波発生源を公共施設や市有地に設置し続ければ、市民の健康を害することになります。行政が地権者であるならば、なおのこと周辺住民への説明責任を果たすべきです。
山城さんも、携帯電話基地局が自宅のそばに設置されてから自身を含め家族全員が健康被害を受け、地権者に交渉して撤去してもらった経験があります。その他にも、住民の相談を受けてこれまでに3基の基地局を撤去させてきました。
「基地局設置は、契約者の意思で決まるので、地権者に電磁波の危険性を伝え、理解してもらうことが大切」と考えています。携帯電話基地局は契約期間が長く、地権者の都合では解除しにくい、一方的な契約内容になっていますが、山城さんの経験では「健康被害を理由にすると企業側は承諾し、違約金を求められた例はない」そうです。「地権者が健康への影響を知っていれば契約しなかったと訴えると、企業側は決まって『聞かれなかったから』と説明します。これは本当に無責任です」と山城さんは言います。
電磁波の健康影響を示す研究は揃っています。行政は、住民の健康を守るために、予防原則に則って対応するべきです。
文:加藤やすこ(環境ジャーナリスト、いのち環境ネットワーク代表)
(『建築ジャーナル』 2012年8月号)