政治的な1000ミリガウス磁場規制
始めに発言したパネリストは元京都大学講師の荻野晃也さん。電磁波関係の本を数多く書いている方です。荻野さんは、こう発言しました。
「昨年6月にWHO(世界保健機関)が環境保健基準を発表した。そこでは3〜4ミリガウスで小児白血病が約2倍発症するとの疫学調査を支持し、なんらかの予防的アプローチが必要と勧告している。しかしWHOとしては具体的規制値を勧告せず、民間国際機関であるICNIPP(国際非電離放射線防護委員会)にまかせる判断をした。そこで現在ICNIPPは1998年に出したガイドライン値(磁場1000ミリガウス)の改訂作業に入っている。
ところが日本の経済産業省は1998年ガイドライン値をそのまま日本の規制値にしようとしている。これはおかしい」。
疫学を日本は軽視している
2番目のパネリストの津田敏秀さんは岡山大学教授で先行は疫学。「病気の原因と結果の関係を明らかにするのが因果推論だが、日本では何が原因なのかを明らかにする"原因曝露"と結果としての"疫病症状"の研究は進んでいるのだが、原因と結果を結ぶ方法論が遅れている。世界の科学界では方法論として動物実験や細胞研究より疫学研究(実態調査)を優先するようになってきている。ところが日本ではあいかわらず疫学を軽視する傾向にある。それと要素還元主義といって、原因を細かく分析しすぎる。症状の原因が魚と分かれば、まずその時点で対策をとるべきなのに、それを原因物質は何なのか、さらに分子レベルではどうか、とどんどん要素を細かく分析していくため、対策はそれだけ遅れる。疫学はその点でも有効な学問だ」と指摘。
電磁波は全身に影響する
3番目のパネリストの宮田幹夫さんは北里大学医学部名誉教授で現在も臨床医として患者を診察しています。「電磁波は神経系、免疫系、内分泌系に影響するため、健康障害が全身に関係する。電磁波過敏症については、カリフォルニア州の調査で対象者の3.2%が電磁波でアレルギーや過敏反応性を示したという研究結果がある。電磁波過敏症を特殊と見ないで、電磁波過敏症の人でも安心して暮らせる社会を目指すべきだ」と発言しました。
住民無視した発生源施設建設
4番目のパネリストはジャーナリストの斎藤貴男さん。最近、携帯電話中継基地局問題でトラブル化した兵庫県川西市を現地取材した経験から「電磁波発生源施設建設計画を事業者は住民達に事前に明らかにしない。これでは住民が不信に思うのは当然だ」と、日本の事業者の姿勢を批判しました。
大久保貞利(電磁波問題市民研究会事務局長)
(『食品と暮らしの安全No.230』 2008.6.1発行)