WHOによる予防原則の適用についての国際会議がカナダのオタワで7月に開かれました。問題の記事は、その会議を紹介した特集記事の中の一つです。
「影響なし」が多い企業出資の研究
トロント・スター紙7月10日号の記事によれば、携帯電話と同じ周波数の電磁波による生態影響を調べたこれまでの研究252件について、ワシントン大学が研究費の出資源を分析しました。
その結果、政府機関や学術機関など公的な資金による研究の場合、81%は生態影響があるという結果だったのに対して、民間企業の出資によるものではたったの19%でした。
論文の内容まで勝手に捏造
さらに民間企業の出資の研究で影響ありという結果が出た場合、その影響をできる限り過小評価するように圧力がかかるという疑惑も明らかにされています。
携帯電話メーカーのモトローラ社の資金による研究で、携帯電話の電磁波によって、ラットの遺伝子発現に変化があったことを発見したジェリー・フィリップス博士が証言しています。
研究結果をモトローラ社に報告したところ、研究論文の最後に「この遺伝子の変化が確認されたとしても、生理学的に重要性があるとはいえない」という一文を付けろと要求されたというのです。
フィリップ博士は「現段階で、重要性があるか無いかは判断できない」と拒否しました。ところが、最終的に学会誌に発表された論文には「たぶん生理学的重要性は無い」という一文が付け加えられていました。フィリップ博士によれば「誰が付け加えたのか未だに不明」なのだそうです。
さらにフィリップ博士は、企業が行う最も非科学的なやり方として、ある生態影響が出たという研究が発表されると、「出ない」という研究を出して、結果をうやむやにしてしまうという方法を指摘します。
さらに「違う結果が出たからといって相殺されるはずがない。科学的にはなぜそうなったのかをより注意深く評価するということだ。しかし一般の人たちは簡単にだまされてしまう」と発言しています。
電磁波の有害性の研究のように、多くの人が影響を受ける反面、企業の利益が強く関与する分野の研究については、今後、研究論文の中に出資源の公表を義務づけるなどの措置が必要でしょう。
植田武智(ライター)
(『食品と暮らしの安全No.197』 2005.9.1発行)