電磁波による健康影響は、現在のところ、科学的不確実性を伴ったリスクとして扱われています。影響があるという研究と、ないという研究が混在しているためです。
本当に電磁波は有害なのかをはっきりさせようと、EUが総額4億円以上をかけて、7カ国、12の研究施設で実施していたのが今回の「REFLEXプロジェクト」です。
複数の機関が同じ種類の設備を使って実験を行うため、実験の再現性が確認されやすく、科学的確実性が増すことになります。
研究レポートでは「疫学調査で指摘されているガンやアルツハイマー病などの原因となるような細胞レベルでの異常が、電磁波を浴びることで起こるのかをはっきりさせるのが目的。もしこの研究で異常が発見できなかった場合、その後の電磁波の研究は中止し、研究費はもっと他の重要な研究にまわすことになるはずだった」と記されています。しかし結果はまったく逆のものとなったのです。
基準値以下でも発ガンの可能性
携帯電話から出る高周波の電磁波では、ガンの原因とされるDNAの切断を確認。DNAを切断させた電磁波の強さは、最小で、携帯電話の基準値(SAR2W/kg)を下回る、0.3 W/kgというレベルでした。
送電線や家電から出る超低周波の電磁波の場合、現在の国際ガイドライン値(1000mG)を下回る350mGで、DNA切断が確認されました。
これまで多くの科学者は、携帯電話や送電線の電磁波はエネルギーが弱すぎて、DNAを切断させることなどあり得ないと主張してきました。しかしこのレポートでは、「電磁波によるDNAの切断は、確実な事実となった。ヒトの健康への影響はまだ結論づけられないが、その可能性は増した。今後、電磁波にはガンなどの病気の原因となるようなメカニズムは解明されていないと主張することはできなくなる」と言い切っています。
さらに研究のリーダー・アドルコファー博士は「パニックを起こしてもらいたくないが、携帯電話の使用はできるだけ避け、イヤホンセットなどを使う方がよい」と予防原則の適用を提案しています。
植田武智(ライター)
(『食品と暮らしの安全No.190』 2005.2.1発行)