携帯電話の電磁波によって、血液中の赤血球同士が引き合う力が100億倍も強くなる可能性を示唆する研究が発表されました。研究を行ったのは、スウェーデンのリンコピング大学の物理学者ボー・セルネリウス博士。
プラスチックの下敷きと髪の毛をこすり合わせると静電気が発生して髪の毛が引っ張られます。同様な力は体内でも起きていて、特に水分子のような電気的に偏りのある分子によって、細胞同士には引き合う力が発生します。通常、その力は極めて弱いのですが、電磁波の影響でその力が強くなるというのです。
熱だけではない電磁波の影響
携帯電話や電子レンジで使用されている高周波の電磁波について、これまで分かっている影響は、体の組織に熱を発生させる作用だけでした。発熱作用だけから見ると携帯電話の電磁波は、とても弱いので安全と主張されていたのです。
しかし、携帯電話から発生する高周波の電磁波が脳腫瘍やアルツハイマー病などの原因となるのではと懸念している研究者も多くいます。彼らは、熱作用以外の電磁波が生体へ影響する仕組みを解明しようと努力しています。
血液が流れにくくなる影響も懸念
セルネリウス博士は、この研究結果に対して「これは数学的モデルで計算したもので、実際の細胞実験で確認する必要がある。また、電磁波が有害だという証拠ではなく、これまで考慮されていなかった影響があるかもしれないということだ」と慎重なコメント。しかし論文の中では「もし本当だとすれば赤血球だけでなく他の組織にも同じような作用を起こしうる。欠陥が収縮して血液が流れにくくなるなどの影響も考えられる」と指摘しています。
イギリス・キングス大学のカメリア・ガブリエル博士は「今回の数学的モデルは単純すぎるが、この仮説は可能性としてありうる」とコメントしています。ガブリエル博士は以前から「子どもの脳は水分が多いため電磁波の影響を受けやすい」と指摘していた研究者です。現在、人体の各組織の電気特性の違いを比べる研究を実施中で、今年12月には結論が出る予定。そのデータを今回の研究に適用することで、より正確な影響が明らかになることが期待されます。各国の真摯な研究者の努力で、電磁波の生体影響の解明が進みつつあります。
植田
(『食品と暮らしの安全No.181』 2004.5.1発行)