たった1時間の電磁波曝露でも影響
実験をしたのは、京都の宇治武田病院の木俣肇(きまた・はじめ)医師。アトピー性皮膚炎の患者26人(21歳から52歳の女性14人、男性12人)に了解を得て、携帯電話の電磁波を浴びせて、アレルギー反応の変化を調べました。
患者は全員、イエダニとスギ花粉の両方にアレルギー反応があります。電磁波被爆の前と後に、イエダニとスギ花粉のアレルゲンを使った皮膚プリックテスト(針で引っかいて傷つけた皮膚にアレルゲンのエキスを塗って反応を調べるアレルギー検査方法)を行い、15分後に湿疹の大きさを計測しました。
ずっと携帯電話を持ち続けるのは疲れるので、実験では首に紐でくくりつけて、あご下4cmのところに固定し、1時間音声なしの通話状態にして曝露させました。
実験は同じ条件で、1週間おいて2回実施。
最初の実験では電磁波を発信させ、2回目には電磁波を発信させませんでした。患者はどちらの実験で電磁波を曝露したか知らされていません。
実験の結果、電磁波曝露によってイエダニによる湿疹の大きさが25%増大。スギ花粉による湿疹も31%増大しました。
興味深いことに、アレルギー性鼻炎の患者にも同様の実験を行ったところ、変化は現れませんでした。木俣医師は「アトピー性皮膚炎の方が、いろいろな環境の刺激で症状が悪化しやすく、電磁波の影響も受けやすいのでは」と推測しています。
電磁波過敏症の解明の手がかりに
以前から、ラットを使った実験で、テレビの電磁波によりスギ花粉のアレルギー反応が増大するという報告はありました。今回の実験で、人間にも同様の影響が起こることが証明されたといえるでしょう。
化学物質過敏症や電磁波過敏症の発症メカニズムでは、化学物質だけでなく、花粉やイエダニのような生物的な刺激、さらに電磁波のような物理的な刺激が相互作用する可能性が指摘されています。これらの刺激による負荷が蓄積し、その人が許容できる総負荷量を超えたときに、症状が現れるのです。
アレルギーのある人は、症状を悪化させないために、携帯電話の使用にも気をつけた方がよいでしょう。
植田
(『食品と暮らしの安全No.170』 2003.6.1発行)