ブレッシア控訴審判決
携帯電話が脳腫瘍の原因であるとした司法判決は、イタリアのみならず、EU加盟国で初の判断であり、影響は大きいものがあります。
トリノ、ミラノ、ベネチアを結ぶイタリア北部の幹線道路沿いにブレッシアの町はあります。人口は約19万人で、ミラノの東に位置する工業都市です。
ブレッシアにある会社で顧客サービス業務に従事しているイノセンゾ・マルコリーニさんは、仕事柄1日5時間、10年間で1万5000時間以上携帯電話を使用していました。その結果、2002年に左頭部に三叉神経腫瘍(脳腫瘍の一種)が発生しました。現在でも、彼は顔面まひの状態です。
マルコリーニさんは、イタリア労働保険機構(INAIL)を相手に「脳腫瘍は仕事で携帯電話を使用したため発生した」として労働裁判所に提訴しました。
その結果、2009年12月に2審にあたる控訴審で冒頭の判決が出たのです。
因果関係を認めた初の判決
判決では「障害の80%は仕事が原因である」と認めました。
裁判では、パヴィア大学のアンジェロ・レビス教授(生物学)と神経外科医のジョセフ・グラッソ医師が原告側証人として立ちました。2人の証人は、原告は右利きであり、左手で携帯電話を持つため頭部左に腫瘍が発生したこと、この事実はスウェーデンの研究者レナート・ハーデルの研究結果と一致すること、原告の携帯電話使用時間、期間が極めて長いこと、などを証言。
この証言を裁判所判決は採用したのです。
レビス教授は証言で、同じイタリア北部にある町クレモーナに住むストラディオッチ氏の病状にも触れています。
この人も顧客サービス業務に従事しており、携帯電話を20年間、3万時間以上使い、悪性の耳下腺腫にかかり、同じくイタリア社会保険機構(INAIL)を相手に訴訟を起こしています。
レビス教授は「携帯電話試用期間の長さは重要で、ハーデルの研究によると、携帯電話を500〜2000時間使用するか、または少なくても10〜15年使用すると頭部に腫瘍が有意に発症増加する、としています」と語っています。
労働裁判所とは
イタリアなど欧州諸国は労働組合が強いたため、労働事件に関する紛争を扱う特別な裁判所として労働裁判所があります。労働裁判所は通常の裁判所と同じく3審制です。
今回の判決は2審(高裁相当)判決ですが、最高裁判決でどのような判決が出るか、注目されています。
南米チリでも基地局撤去の高裁判決が出て、司法界で一つの流れができつつあります。
大久保貞利(電磁波問題市民研究会事務局長)
(『食品と暮らしの安全No.252』 2010.4.1発行)