現実の健康被害訴えは全国初
2009年12月16日、延岡市大貫町の住民たちは、KDDIを相手に「基地局の操業停止」を求める訴えを起こしました。
「将来の健康被害を予測」しての提訴は、九州中心にこれまで数件ありましたが、「現在すでに被害を受けている」住民による訴えは、全国で初めてのケースです。
市内大貫町の3階建てアパート屋上にKDDIが携帯電話中継基地局を設置したのは、4年前の2006年9月18日です。基地局が稼働し電磁波を発信したのは同年10月30日と推定されています。
その翌月の11月には早くも異常な耳鳴りを感じる住民が出始めました。危機意識を持った住民たちはただちに「基地局撤去を求める署名」を4103人分集め、延岡市長に提出しました。
その後、耳鳴りだけでなく、頭鳴、肩こり、鼻血等の健康被害を訴える住民は10人に増え、今では人によっては、日常生活はおろか、生命の危険が迫るほど悲惨な状態になっています。
被害を認めない携帯会社
KDDIは、自ら計測を行ない、異常な高い数値が出たことを確認しています。しかし、住民たちの被害状態の訴えがあるのにもかかわらず、現状を放置し電磁波を出し続けています。
住民たちの我慢は限界を超え、「住民の健康より自社の営利活動を優先する」KDDIの姿勢を許してはならない、と立ち上がったのです。この訴訟は、住民たちの健康と財産を守り、子どもたちの安全な未来を保障するための、やむにやまれぬ正義の闘いといえます。
訴訟のポイントは4点です。
第1、今回の基地局は3階建ての屋上にアンテナが立ち、地上からわずか15m弱の所にアンテナが位置している。したがって、電磁波は上から降り注ぐのではなく、住民たちは横から電磁波を受ける位置関係にあること。
第2、電磁波による健康被害に関する科学的知見は、レフレックス研究やバイオイニシアティブ報告等ですでに十分到達点に達しているといえる。
第3、健康被害実態は、被害発生の経緯、北里研究所病院医師の知見、原告らの具体的症状からも明らかで、「健康被害は受忍限度を超えている」ことを論証できる。
第4、予防原則は一般論としてフランス高裁判決でも論じられているが、日本においても展開されえると考えていい。それは、従来の最高裁判例の枠組みである受忍限度論を具体化する基準と考えられる。
今後の取り組みは予断を許しませんが、多くの支援の力で勝利させたいと考えています。
大久保貞利(電磁波問題市民研究会事務局長)
(『食品と暮らしの安全No.251』 2010.3.1発行)