業界に迎合したという批判
「インターフォン研究」は、WHOのIARC(国際がん研究機関)が先導し、米国を除く先進13ヵ国が共同で行った「携帯電話と脳腫瘍の関係を見る大規模疫学調査」です。それだけに、その最終報告は各方面から注目されていました。
ところが、各国政府はとうに研究結果が出ていたのにもかかわらず、プール分析(各国の別々のデータを一つに集めた研究のように扱い分析する手法)のため4年も要したことに、様々な憶測が飛び交いました。
しかも、インターフォン研究は、髄膜腫、神経膠腫、聴神経腫、耳下腺腫の4タイプを対象にしていたのに、今回、髄膜腫と神経膠腫の2タイプのみ先行発表しました。
より耳に近い、従ってそれだけ携帯電話の影響を受けやすい聴神経腫と耳下腺腫をなぜ、後回しにしたのか不可解です。
次に、対象者の年齢を30歳〜59歳に制限したことです。一般的に若い人ほど携帯電話を長時間使用するし、若い人ほど電磁波の影響を受けやすいいわれているのにです。
さらに、10年以上の対象者は、全体の10%以下しかいません。脳腫瘍発症には、潜伏期間が10年といわれているのですから、10年以上使用者の分析を別途に行うべきでしょう。
また、ヘビーユーザーとしたのは「1日平均30分以上使用者」。通常使用を「6ヵ月以上使用し、かつ毎週1回以上使用する」とし、電磁波が問題となっているコードレス電話使用を「非曝露群」にしています。
生データをオープンに
プール分析によると、「神経膠腫オッズ比0.81」「髄膜腫オッズ比0.79」となっています。つまり、「携帯電話を使うと脳腫瘍になりにくくなる」というへんてこりんな結果となったのです。なるべくリスクが出ないように小細工して、このような結果になったとしか考えられません。
インターフォン研究は、費用の25%を携帯電話産業が出資しています。そのため論文執筆者が業界に迎合したのではという批判すら出ている状況です。
それでも、「トータル1,640時間以上使用に限定すると、神経膠腫も髄膜腫も共にリスクは高まる」と出ました。このデータの持つ意味は大きいといえます。
IARC長官のクリストファー・ワイルド博士は「携帯電話を安全と結論づけるのは時期尚早」とコメントし、インターフォン研究責任者のエリザベス・カディス博士は「リスクがないことが証明されたわけではない」とコメントしていることを忘れてはいけません。
インターフォン研究の生データは、いますぐ行政や業界から自立した独立研究者に開放すべきです。
大久保貞利(電磁波問題市民研究会事務局長)
(『食品と暮らしの安全No.257』 2010.9.1発行)