大きいことがいい時代ではない
私がまだ子どもの頃、東京タワーの完成はそれこそ胸がワクワクする出来事でした。「あのパリのエッフェル塔より高い、世界一の鉄塔が東京に建つ」と、それこそほとんどの日本人の夢と希望がそこに凝縮されていました。映画『ALLWAYS 三丁目の夕日』の世界です。「消費は美徳」「大きいことはいいことだ」と素直に信じていた時代でした。
しかし、その後高度経済成長時代も終わり、公害問題やさまざまな社会問題の提起の中で私たちの世界観、時代感覚もかなり変化してきました。
ニューヨークの摩天楼より、フィレンツェの古い町並みのほうが味わいがあるとか、幕張メッセの無機質なビル街より岐阜の高山の町並みのほうが落ち着くといったようにです。
テレビ局を中心に、連日、スカイツリーが高さ○○メートルになったと騒いでいますが、何かおかしいと思いませんか?
スカイツリーは地上テレビ波デジタル化(地デジ)とセットのものです。テレビの画面に「アナログテレビはもうすぐ見られなくなります」と恐怖心をあおるようなことをされて、おかしいと思いませんか?誰が地デジにして欲しいと望んだというのでしょうか。
ここらで立ち止まって考えてもいいのではないでしょうか。
スカイツリー(新東京タワー)は、墨田区の押上・業平橋地区に建設中です。
しかし、それまで新東京タワーの建設予定地は二転三転しました。やれ、大宮だ、やれ秋葉原だ、やれ立川だ、といった具合です。最後はほとんど論議もほとんどなかった墨田区に急転直下決まりました。
トロントタワーとの違い
連日、軽薄なテレビはスカイツリーの高さに目を向けて報道していますが、本当の問題は「完成後に強力なデジタル波がアンテナから出ること」「その影響はどの程度のものか」です。
また、「地デジ化で実際テレビが見られなくなる人はどうなるのか」「デジタル化で本当に番組の内容はよくなるのか」「予算的にデジタル化に乗れない地方のテレビ局は在京テレビの下請けにされるのではないか」等々の本質的な議論は、一切なされていません。
私は、スカイツリーが建つ前に、東武鉄道が100%出資する新東京タワー株式会社と交渉しました。
その場で、「世界の同じような高いタワーを実施調査し、問題点を比較したことはあるのか」と先方に質問したら、どこにも行っていないという返事でした。開いた口がふさがりませんでした。
私は自費で当時世界一だったカナダのトロント市にあるCNタワー(高さ553m)を見に行きました。百聞は一見にしかず、だからです。その話は次号に。
大久保貞則(電磁波問題市民研究会事務局長)
(『食品と暮らしの安全No.258』 2010.10.1発行)